【レポート】第72回難病対策委員会・第3回小慢対策委員会

 難病・小慢の合同委員会が、2024年10月15日(火)16時よりAP虎ノ門Bルーム(東京都港区)にて開催されました。
JPAからは委員の吉川祐一代表理事が都合により欠席となったため、参考人として辻邦夫常務理事が出席しました。
今回も多くの意見が出されましたので、辻参考人の発言を中心に報告します。

当日の配布資料

下記のURLからダウンロードいただけます。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44299.html

議事次第

  1. 難病・小児慢性特定疾病制度に関する医療DXの取組の全体像について
  2. 既存の指定難病の研究進捗状況の確認に関する検討状況について

議事次第「1.難病・小児慢性特定疾病制度に関する医療DXの取組の全体像について」では、難病・小慢の医療DXの取組について、資料1を用いて説明が行われました。

将来像として
(1)申請手続きの電子化(指定医のオンライン登録と患者からのオンライン申請を進めることで医療費助成申請の利便性向上を図る)
(2)オンライン資格確認と上限額管理票の電子化(左記によりマイナンバーカード1枚での受診を可能とし、受給者証を持たない方が軽症高額に該当した場合に円滑に受給者証を交付できるようにする)
(3)二次利用(難病と小慢のデータベース(以下DB)に登録されている情報について、仮名化等により効率・効果的な二次利用を進める)
の3つのポイント(ページ4)と今後のスケジュール(ページ5)示されました。
続けて(1)、(3)の進捗状況報告(ページ6~17)や仮名化情報の利活用案(ページ18~)などの説明後、議論に入りました。
(2)については、次回委員会での議論が予定されています。

(1)についての辻参考人の意見は以下の通りです。

  • ページ8 申請者の利便性が高まる点でぜひ医療DXは推進してほしいが、そういった手続きを行うことが困難な方もいるので、不利や不便にならないよう配慮をお願いしたい。
    また、これが進むことで保健所等との接点やその機会が失われる場合もあると思うので、情報提供や患者への寄り添いの面などカバーする方法を考えてほしい。
  • ページ14 仮名化情報に関する審査委員会について、他の審査会や委員会などの状況も踏まえ、一般的な見識を持った方の参加も検討してはどうか。
  • 仮名化は基本的に進めてもらえれば思うが、指定難病においては10人以下の疾患が100近くあると認識している。
    他の疾患と比べて特定がしやすいので、その点に配慮し、上乗せの規制などをしっかり設ける等検討してほしい。

また、福島慎吾委員(認定NPO法人難病のこども支援全国ネットワーク専務理事)も以下の意見を述べました。

  • 申請者へのメリットのある医療DXを進めてほしい。
    例えば、医療費の支給認定をオンラインで行う方法として3つのやり方(ページ8)が示されているが、転居の際に煩雑な手続きが生じないようにするなど、シンプルかつ汎用性のあるものにしてほしい。
    また、医療意見書以外の必要書類(住民票の写し等)の取得についても、手続き全般を簡素化する方向で進めてほしい。

他の委員からは、仮名化情報の利活用について、関係者や利用者への対応ばかり記載されていて、国民や患者の皆さんに説明し、安心感を持って見守ってもらう取り組みが抜けているのではないかといった指摘や、データ提供にあたり患者・家族への迅速な情報開示(データがどう使われ、どのような成果があったか)ができる場を厚生労働省のウェブサイト上に設けてはどうか、臨床調査個人票の記載内容に就労や生活の状況を記載できるようにし、福祉面からの研究にも資するようにしてほしい、といった意見が出されました。

 続いて、議事次第「2.既存の指定難病の研究進捗状況の確認に関する検討状況について」、資料2を用いて説明が行われました。

ページ2に記載の通り、状況の変化が生じた医療費助成の対象疾患については、指定難病検討委員会(以下、検討委員会)において定期的に評価することとされていることを踏まえ、昨年12月の検討委員会にて、指定難病に関する検討の基本方針と検討のプロセス(ページ3)が示されたことから、今回そのスケジュール案(ページ4)が示されました。

(2)について、まず福島委員が以下の意見を述べました。

福島委員
新規疾病や重症度分類などについては、これまで通り検討委員会での検討でよいと思うが、今回のように指定難病の要件や要件に合致するか否かについての議論を、医学の専門家だけで構成されている検討委員会の判断で決めることは、手続き上問題があるように感じる。
ページ3にも…総合的に判断すると記載されているが、そうであれば検討委員会にも当事者側の委員をいれる、あるいはこの合同委員会や難病対策委員会(以下、対策委員会)、対策委員会との合同による新合同委員会などできちんと議論してもらうことを提案したい。

事務局(難病対策課)回答
検討委員会においては、客観的かつ公平的に疾病を選定するために設置されたものとなっている。
また、要件の検討においても、研究班等が整理した情報をもとに医学的見地に基づいて検討を行うこととなっており、設置要綱上でも選定・見直しに関する審議事項は検討委員会で検討することとされているため、見直しに関する議論の状況等も含めて検討委員会から対策委員会へ報告する形になるかと思う。
また、一般の視点入れるべきではないかということについて、患者の療養生活の情報は個別の研究班が情報収集したうえで、検討委員会へあげてくるものが望ましいと考えている。
今後も周辺情報を委員会にあげる仕組みづくりをしていきたい。

(2)についての辻参考人の意見は以下の通りです。

辻参考人
今回、指定難病に関する検討の基本方針に「長期の療養が必要でない」に加え「又、重症者の割合が減少する」等の文言が検討委員会で加わってきたことで、患者の間では新たな疾患外しや指定難病の範囲を狭めようとしているのではないかという不安の声が上がってきている。
この間、対策委員会が開かれずに、検討委員会が決めたスケジュールに基づいて進んでいる印象がある。
検討委員会と難病対策委員会の位置づけについて、事務局に確認したい。

事務局(難病対策課)回答
先ほど申し上げた通り、設置要綱上、指定難病の選定・見直しに関する審議事項は検討委員会で行うとされている。
一方でその議論を受けて、今後一定の経過措置をおく等が必要になった場合や要件自体についての議論は、対策委員会で行ってもらうものと考えている。
対策委員会での議論や意見を踏まえ、検討委員会での意見に反映していく形になる。

辻参考人
資料2のページ3中段の長期の療養を要しない又は重症者の割合が減少する等の記載について、以前から長期の療養を要しないという点を中心に議論がされていたと認識していたが、昨年12月の検討委員会の資料で「重症者の割合が減少する等」が加わってきた。これは新たな要件なのか、そうであるならば難病対策委員会で議論すべきことではないか思うが、いかがでしょうか。
また、参考資料3では、「ただし、既存の指定難病の見直しにおいては、医療費助成による治療等の効果により軽症を維持している患者がいることを考慮する」と、違った表現で記載されているが、資料2と参考資料3とでは新しい記載のある参考資料3が優先されると考えてよいでしょうか。
そうであれば、資料2のこの点については再検討をお願いしたい。昨年改定された難病法の基本方針の第六では、「難病の治療方法が確立され、根治すること、すなわち難病の克服が難病患者の願いである…」と示されており、時間はかかるかもしれないが、根治向かって努力することが書かれているに対し、昨年12月の検討委員会の資料では、重症者の割合が減少することでよいような書きぶりになっていることに、患者側からも「根治をあきらめたのか」などの不安な声が寄せられている。

事務局(難病対策課)回答
長期療養における重症者の割合の資料については、資料2および参考資料2過去の時点での資料となるので、最新のものは参考資料3をご覧ください。
重症者の割合が高い疾患が長期の療養を要することが多いということで、過去の検討委員会でもそういった観点を考慮して指定難病への指定を行ってきた。一方で、既存の指定難病では医療費助成を受けて治療などを行った結果、軽症を維持している方が一定数いるため、重症者の割合が低いことをもって指定難病から外すと治療控えが起こるのではないかと懸念されている。
その点を考慮して、検討委員会にて指定難病の見直しにおいては、重症者の割合が低いことで指定難病から外すことはしないとの考え方が示された。
その結果を参考資料3にて長期療養に関する要件の明確化として示している。
また、根治の定義について様々な議論があることは認識しているが、重症者の記載があることをもって根治をあきらめるものではないと考えている。

 同じく患者会からの構成員となっている柏木明子委員(有機酸・脂肪酸代謝異常症の患者家族会ひだまりたんぽぽ 代表)からも以下の意見が出されました。

柏木委員
仮に指定難病から外れた場合、患者のデータの取り扱いはどうなるか。
また、事実上データの積み上げはストップし、治療研究も止まる可能性があることを懸念したが、いかがでしょうか。

事務局(難病対策課)回答
指摘のあった点を懸念されていることはごもっともかと思う。
どういった疾患が出てくるかについては、現時点ではわからない部分がある。
仮にそういった疾患が出てきた場合に、治療研究や福祉サービスの継続はどうするのかなど、議論をしていかなければならないと考えている。

その後、参考資料3について、辻参考人より以下の意見が出されました。

辻参考人
参考資料3のページ8の「一般と同等の社会生活」の文言について、昨年12月の検討委員会での明文化以降言われてきているが、難病法の付帯決議においても「今後の指定難病の見直しにあたっては、患者数だけでなく、患者の療養状況や指定難病に指定された経緯も考慮しつつ慎重に検討すること」とされており、弊会も患者が抱える日常生活の困難さも十分に捉えて、治療や療養生活の支援となるよう要望している。
難病をめぐる諸課題は、医療だけでなく生活の部分でも課題が大きいと認識しており、「一般と同等の社会生活」については総合的な観点から議論するべきではないかと考えている。
研究班から患者会の意見を聞くという回答もあったが、時代の流れを見ても、検討委員会の場に一般の立場の方や当事者を入れて議論すべきではないかと思うが、いかがでしょうか。

事務局(難病対策課)回答
検討委員会の設置要綱を踏まえると、客観的かつ公平に疾病を選定するために設置されているので、研究班が整理した情報をもとに医学的見地から検討を行う必要があると考えている。
ただ、患者の療養生活の情報を拾うのは大事なことであるので、今後各研究班において療養生活に関する様々な情報収集を積極的に行っていくことをお願いしたいと思っている。

辻参考人
参考資料3のページ11の「一定の人数に達しないこと」の文言について、要件を決めた際に、難病は希少性により研究開発が進まないことや差別・偏見を受けやすい点があったかと思う。
指標が分かりにくく、これまでは直近の状況を鑑みとのことだったかと思うが、今回直近3年間の受給者数を参考にとのことで方針が出されたと認識している。
実際の研究開発の状況や希少疾患ゆえの課題の解決状況を踏まえてほしいので、そういった指標を参考にしつつという点はよいかと思う。
現在この要件に該当する疾患はないと認識しているが、いかがでしょうか。

事務局(難病対策課)回答
現状、直近3年間の受給者数を確認したところでは18万人を超えるものはないと理解している。
個別具体的な議論は検討委員会でされると思うので、そちらの結果をご覧いただきたい。

辻参考人
この場での検討ではないかもしれないが、長期の療養が必要な指定難病ではない慢性疾患についても、高額な治療が出てきているので、受診抑制が進むことのないように、経過措置ではなく対策を考えていく必要があると考えている。

事務局(難病対策課)回答
見直しの対象としてあがってきた疾患の経過措置については、先ほど申し上げた通り、対策委員会で議論することとなっているので、そのようにお願いしたい。

辻参考人
参考資料3のページ15にて「類別化して呼称した疾病は認めないものとする」と示されているが、比較的歴史の浅い疾患は、重症の方については遺伝子変異や抗体が見つかるなどといったことが十分ありうるのではないかと思う。
それらも含め、認められないのかどうか教えてほしい。

事務局(難病対策課)回答
ここで類別化と記載しているのは、いわゆる疾患を輪切りで考えるというところ。
そういったものを認めてしまうと、希少性の判断が歪んでしまうので一律に疾患の類別化は認めていない。

辻参考人
割合は低くても重症の患者がいる疾患が、軽症の方が多いという理由で指定難病を外されると重症の方はどうやっても救われないことになる。制度としての限界はあると思うが、軽症の方が多い中でも重症の方もいる事をどうしていくか考える必要があるか思うが、いかがでしょうか。

事務局(難病対策課)回答
既存の指定難病においては、治療等を行った結果軽症を維持している方がいるため、重症の方の割合で外すことは治療控えが起こるのではないかということで、今回但し書きが追記されたと認識している。
一方で重症者の割合は、長期療養の部分とかなり重複する概念かと思う。
重症者の割合が高いものは、長期の療養を要するものということで大抵相関するのではないか思うので、新規の認定に関しては、その要件が残っているのではないかと思われる。

 

報告は以上です。

 今回の委員会では、重症者の割合が低いことで指定難病から外すことはしないとの方針が示された一方、「治療方法が確立していないこと」の要件の中の「一般と同等の社会生活を送ることが可能である」の部分については、研究班が患者会を通じて情報収集を行って判断することに留まり、検討委員会への一般・当事者の参画についても前向きな回答は得られませんでした。
次回以降の委員会や秋の要望書などでも、引き続き要望していきたいと思います。

以上