【報告】第2回「高額療養費制度の在り方を考える専門委員会」が6月30日に開催されました

 2025年6月30日(月)16時より「高額療養費制度の在り方を考える専門委員会」が、厚生労働省専用第21会議室にて開催されました。
JPAからは大黒宏司代表理事が委員として出席した他、患者団体からの委員として、全国がん患者団体連合会(全がん連)の天野慎介理事長も同じく委員として出席しました。
当日資料は厚生労働省のウェブサイトからご覧いただけます。

患者団体等からのヒアリング

 今回は、慢性骨髄性白血病患者・家族の会 いずみの会、認定NPO法人日本アレルギー友の会、NPO法人血液情報広場・つばさ、認定NPO法人ささえあい医療人権センターCOMLの4団体が参考人として招かれ、制度見直しについてそれぞれの見解を述べた後、委員から質疑等が行われました。

 慢性骨髄性白血病患者・家族の会 いずみの会副代表の河田純一参考人は、慢性骨髄性白血病はかつて不治の病であったが、分子標的薬の登場により、5年生存率3割未満から10年生存率が9割以上に改善し、治療を継続できれば健康な人と同じ余命が送れるようになったとデータに基づいて説明。
一方で、治療薬は高額であり、治療を続けないと命に関わることから、高額療養費制度とともに生きている病であると現状を述べました。
また、いずみの会が2021年に実施した調査では、治療を継続していく上で困っていることとして、医療費などの金銭的な負担が56%で最も多かったとしたうえで、自己負担上限額の引き上げにより、最適な治療が受けられず「静かな自殺」と呼ばれる治療中断が増えていくことを強く懸念していると訴え、最後に下記の三点を述べて結びました。

  1. 高額療養費制度の見直しは、長期療養者のLife(いのち、生活、人生)直結する課題である。
  2. 「セーフティーネットとしての高額療養費制度の役割」の重要性を理解し、その維持を強く望む。しかし、現行制度でも長期療養者にとって、この役割は必ずしも果たされていない。
  3. 所得と年齢のみを考慮した「負担能力に応じたきめ細かい制度設計」には、長期間の負担が十分に考慮されていない。

 日本アレルギー友の会理事長の武川篤之参考人は、様々なアレルギー疾患がある中で、アトピー性皮膚炎について触れ、この30年間で患者数は2倍に増加しているものの、近年、生物学的製剤などの画期的な新薬の登場により大きな治療の成果が上がっていることを説明。
副作用も比較的少ないことから生活の質が改善し、社会活動への参画や安定した就労に繋がっていると述べました。
一方で、治療薬が高額なことにより治療をためらい、新薬の恩恵が受けられない方がいるのは大変残念であるとしたうえで、家計への影響を考慮し、治療継続が可能となるよう見直すこと等を要望しました。
加えて、意見陳述の最後には、「アトピー性皮膚炎や喘息は疾患を持つことだけでも日常生活、社会生活に患者の負担が大きい疾患です。さらに経済的負担が増えることは患者を更に追い詰めてしまいます。」と訴えました。

 血液情報広場・つばさ理事長の橋本明子参考人も、慢性骨髄性白血病については分子標的薬の登場(2001年)により、飲み続ければ移植をしなくてもほぼ普通に暮らせるようになったものの、2007年前後の世界経済の急変により、薬代が払えず治療を断念する方が出てきたと話し、治療費を支援する基金を立ち上げた経験を語りました。慢性骨髄性白血病に限らず、血液がんの領域では新しい薬や治療法が出てきたことで長期治療が可能となり、治癒という言葉も多く聞かれるようになった一方で、患者にとっての負担の大きさについて事例を交えながら話しました。

 ささえあい医療人権センターCOML理事長の山口育子参考人は、自身もこれまで3種類の癌を経験し、その都度入院や手術で高額療養費制度の恩恵を受けてきたと話したうえで、2007年にそれまで現金給付(一旦定率分の医療費を払い、高額療養費の自己負担上限額を超えた分を還付)のみだったところから、限度額認定証の提示による入院費の現物給付(上限額のみ支払い)が始まったことで、かかった医療費の全額の実感・自覚が低下したのではないかと指摘。
それにより「高額な薬剤」の自覚がなく服用せずに捨てていた患者がいることや、患者の負担が上限額に留まるので、いとも簡単に高額な薬剤を使用する医師がいること、高額療養費制度の使用目的で留学している外国人の存在などを患者や医療者から届く声として紹介しました。
続けて、患者にとってはなくてはならない制度としつつも、諸外国に目を向けてみるとこんなに恵まれた制度を擁しているところはほとんどないのではないか、恵まれている制度だということを今一度自覚する必要があるのではないかと述べました。
そのうえで、この高額療養費上限額引き上げによって困る方がいるのは重々承知しているが、財源が持たず突然はしごを外されたときに、もっと多くの方が路頭に迷う事態は避けなくてはいけない、長期療養者への何らかの配慮は必要だが、引き上げをして、負担額を増やすことは避けられないのではないかと述べました。

 委員である全がん連の天野理事長は、河田参考人と山口参考人に対し、以下の質問を投げかけました。

<天野委員> お話にもあった通り、薬を飲み続けなければいけないという面がある一方、現在、臨床試験という形で、休薬や減薬が可能になっている場合もあると思う。そういった患者さんは、河田参考人の主観的な感覚で、どの程度いるのかお聞きしたい。

<河田参考人> ご指摘の通り、一部薬をやめるトライをするところまで治療成果が出ている方は確かに出ていて、最新のガイドラインでも、強い推奨ではないものの、目的の一つに入ってきた。正確な数字は述べることができないが、その状態(深い寛解)まで至る方はあまり多くなく、薬を中断して再発する方も5割いるため、限られた人数しか薬をやめることはできない状況。加えて、薬をやめられる深い寛解状態を作り出せているのは、より効果のある薬が長期にわたって使える環境下にあることが影響しており、例えば費用対効果などの考え方によって新薬が承認されなくなったり、経済的にも優れた薬だけを使うようになれば、薬をやめたり減らしていくチャレンジに至らなくなることを懸念している。

<天野委員> 10年前の高額療養費の見直し、特に外来での現物給付化について患者団体として要望活動に携わっていたが、現物給付は再発を繰り返し、長期にわたって抗がん剤治療を受けていた患者さんの要望や生活保護を受けるために世帯を分ける、あるいは治療をやめることが多発し始めたことからできた。
現状でも、WHOが定義する破滅的医療支出を超えた過重な費用負担を強いられている中で、将来のことを考え引き上げを行う、このバランスが非常に難しいと思うが、山口参考人のお考えがあればお聞きしたい。

<山口参考人> その月だけで見ると破滅的(40%以上)の支出になるかもしれないが、年単位で見たらどうか分からないと思っている。
また、長期にわたり高額な医療費が継続する方については何らかの対策を講じることは必要だが、多くの方は1回、2回であるので、一律に考えるのは難しい。
そうすると、1回か2回か3回か分からないが、その方の費用負担、上限額を上げていく必要があると思う。

 続けて、JPAの大黒代表が今後の議論に際して、以下の意見を述べました。

改めて、現状の把握が大切だと思う。今でも治療の中断は生じているとの実例が挙げられているので、まずは現状の高額療養費制度下の患者の現状を見つめるべきではないか。
また、長期にわたり治療が必要な病気があり、Lifeという言葉で命、生活、人生に直結するとの話があったが、単に生活できればよいというのではなく、やはり命や人生そのものを考えるべきと感じた。
今後、様々なモデルを用いて考えることになっているが、我慢すればどの薬でも生きられる、生活できるものではないことも今日述べられたかと思う。
特に難病は個別性ということが非常に重要な観点で、モデルで単純化し過ぎると個別性が失われるという懸念があるので、単純化し過ぎないよう考慮すべきと感じた。
また、今回、分子標的薬という言葉が多く出てきたが、これはがんの分野だけではなく多くの難病患者の治療にも影響を与えていて、言葉だけでは伝わりにくいが、このような薬が出てきたときに患者や家族とってどんなに希望が見えたか、逆にその薬が経済的に使いにくいと感じたとき、患者や家族がいかに落胆したか。そういうことを少し想像していただければ、今後の議論に生かせるのではないかと思う。

 報告は以上です。

 今回の委員会では、他の委員等から、「日本の素晴らしい医療制度に私たちは甘えてしまっている。世界に冠たる高額療養費制度のありがたみがわからなくなっている。どれだけ恵まれているのか自覚しなくてはいけない。」といった趣旨の発言がありました。
2024年12月に高額療養費制度見直しの政府方針が示されてから、大きな問題点として繰り返し指摘してきた「現場感覚のなさ」を象徴するような発言であったように思います。
全がん連が実施したアンケート調査で集まった3,623名の声に目を通すなどして、がんや難病を抱える患者や家族の置かれた状況を少しでも想像して発言いただくことを切に望みます。

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