●患者・家族の訴え |
・はむろおとや(下垂体患者の会)
下垂体機能障害は特定疾患に指定されました。お金の心配をしないで治療を受けられる日を私たちはどれだけ待ち望んだことでしょうか。難病指定にご尽力をいただいた与野党の心ある政治家のみなさん、私たちはこれから病気とともに生きていく命と勇気をいただいたと思っております。指定された11疾患の患者団体の一つとして心からお礼申し上げます。
今回の認定では下垂体機能障害など11疾患に光があたりましたが、同じような症状、同じような苦しみを背負う病気が残されております。私たちに光があたればその分、周りは暗くなるような気がします。やはりみんなが助からないと本当の解決にはならないと私は思います。そのためには制度から改める必要があり、特に長い治療をする人たちが救われないといけないと思います。
また、医療費助成だけでなく、内部障害者として生活の保障、福祉にも光をあててほしいと思っております。たとえばクッシング病ではストレスに弱くなり疲れやすくなります。ある若い会員は、疲れやすいため月に2度しか入浴をできないといっていました。外出はほとんどしていません。しかし、疲れやすさというのは身体機能に異常があるわけでありませんから、日本では障害者手帳ももらえません。内部障害も社会全体で支えていくセーフティネットが必要だと思います。
今は病気のことを隠さないと就職も結婚もできないのかもしれません。社会に私たちが合わせるのではなく、社会が私たちに合わせるべきです。たまたま臓器や病名が違うからといって難病指定されたりされなかったり、障害者手帳をもらえたりもらえなかったりする。そういう世の中ではなく、今問われるべきは命を大切にする、そういう政治を夢ではなく現実のものにしていく段階にきていると思います。
弱者に光をあてる行政を求めて私の発言を終ります。
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・高田秦一(北海道難病連)
地域医療に関して「患者会の訴え」をします。はじめに北海道でのエピソードを紹介します。
去年の今頃、私は北見枝幸という町に難病連の用事で行ってまいりました。日本の北の果てからオホーツク海沿いに約50キロ、人口1万強で、おいしく栄養豊かな農産物や水産物を日本中に供給する町です。札幌から350キロほどの距離ですが、鉄道はなく長距離バスが唯一の公共交通手段で、札幌行き一日1本の早朝7時丁度発に乗って驚きました。客同士は顔なじみのようで、お年寄りばかり10人ほどが高いステップを互いに手を引いたり背中を押したり時間をかけてバスに乗り込むのです。「父さんの見舞いで札幌にいくんだー」とか「冬は雪がすごくて病院には通えない」など話題は健康のこと病院のことばかり。森の中を約1時間半走って地域中核市である名寄の市民病院前で夫婦ら3人降りました。さらに南へ2時間で大都会の旭川に到着し、市民病院前2人ほかの病院に行くといって2人降りました。手短に言えば10人中8人が通院のためのバス利用でした。
北見枝幸、実は神経難病では画期的な地域連携医療の仕組みができたと、今年沖縄で行われた難病センター研究会でこの町の保健師さんが発表をしたところです。しかし他の疾病では、こうした困難を押して大都会まで通院せざるを得ないという現実を目の当たりにしました。
もう一つの話題はその旭川からJR特急で3時間ほど東にある、オホーツク圏の拠点市である北見で起きたことです。新潟県の広さがあるこの地域31万人の三次医療の拠点病院・北見赤十字病院では08年2月から医師の退職を理由にリウマチ膠原病内科の診療停止を決め、リウマチ・膠原病の約2000人といわれる患者は厳冬の大地に放り出されました。2000年には14人いた専門医が次々と退職し遂に全員が退職したとのことで、テレビは難病患者が見知らぬ旭川市に家族ぐるみ転居せざるをえなかった例や、会社を休んだ夫の車で危険な冬道160キロを釧路まで通院する夫婦を放映していました。残された患者は不安であってもやむなく専門外の他の医師に移るわけです。北海道難病連は2月26日に緊急の市民の集いを呼びかけ、関係者と市民250人がこの深刻な地域医療の実態を全国に発信しました。難病連が8月に行った影響調査アンケートでも「専門医がいないので片道3時間半もかかる旭川へ早朝から夜まで一日がかりの通院で経済的にも体力的にも大きな負担だ」「病勢が進行しこの先自力で通院できなくなったら通院を我慢するしかない」などの声が上がっています。その後一年半たって北見赤十字病院では先月(10/20)ようやく1名の専門医を確保して診療再開をしたそうです。
これまで北海道の北半分の事例を申し上げましたが、太平洋側の釧路・根室や日高、日本海側の檜山や後志・留萌という他の地域でも同じ課題を抱えています。
医療が極端に大都会に集中している現状は改善の兆しさえありません。北海道保険医師会の調査でも地域経済の地盤沈下と過疎化が進み、医療も効率が悪くなって経営悪化、さらにその場しのぎの医療政策が医師や看護師はじめ医療スタッフの過重労働を進めているといっています。生活圏で医療が完結することを地域医療だと思うのですが、それができない今、医療関係者も必至になってその対応を考えています。しかし有効な対応策も見出されぬまま、他の医療機関に支援を頼んだり、患者の送迎や労働時間の強化でしのいでいるのが現状と先の報告では言っています。
自治体も北海道では厳しい地方財政の中で医療政策をやりくりするため、高度な医療サービスのできる三次医療圏として北海道を大きく6つに分け、それをさらにおおむね入院サービスの完結を目指す二次医療圏が21地域、初期医療を提供する一次医療圏180地域に分類し、相互支援の体制を敷いています。でも身近な自治体病院は縮小・廃止され、広大で都市までの距離が長く冬の間の厳しい自然条件の中でこれらの医療機関にたどり着くことは至難のわざとなっています。
本当に医療を必要としている人は自家用車の運転もままならないのですが、地域ではとうに公共交通機関はなく、冒頭のエピソードでもバス停まで出るのに知人の好意に頼らざるをえない。札幌近郊の町でもコミュティバスや乗り合いタクシーなどを考え出して対応しているのが実情で、町の構造や住民のライフスタイルに対応した暮らしと交通を考えることは欠かせない課題になっています。
一方、地域住民の健康を守る保健所は、地域保健法で始まった保健所の新体制で難病はずうっと後景に押しやられ、難病を担当していた保健師さんは流行のインフルエンザから日常の慢性疾病管理・指導も受け持って、難病患者の家庭訪問などは手に余している現状です。北海道難病連は北海道と協働して難病医療福祉相談会を開催していますが、その行政側の担い手である保健所が腰の引けた状態で、現場には予算・人手・やる気がないという極めて消極的な対応です。しかしながら実際に難病医療福祉相談会を終わってみると、どの保健師も生きいきとしてその日の成果を総括し、看護師冥利に尽きるみたいな表情に帰るのです。
北海道では難病連が道の難病政策に深く関与して『北海道医療計画』にも組み込まれており、患者の状況は道にも良く知られています。患者の声の届けにくい都府県ではどのようになっているのでしょうか。地域に暮らしている人たちの命に直結したこの問題は根深く、日本の社会の構造的な問題だと思います。政権交代の後、これまでのしくみを住民本位に変え、地域の人たちの元気を取り戻させるためには、私たちはもっともっと地域発の事実と情報を発しなくてはなりません。命がけの闘病をしてきた難病患者だからこそ、命を守るしくみを世間に訴える使命があり、患者のみんなが声をあげることこそ、政党のマニュフェストに命を吹き込むことになるのだと思い、報告とします。
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・若宮有希(遠位型ミオパチー患者会)
遠位型ミオパチーは、筋力が手先や足先から徐々に低下していく進行性の筋疾患です。全国に300人から400人の患者がいると推定されています。
私が診断されたのは、19歳のときでした。初めのころは、「運動不足による体力の低下」より少しひどいくらいでした。現在は、かろうじて文字を書いたり、A4の紙をめくることはできますが、A3の大きさは無理です。
「何かができなくなると、体調管理が悪いから」と自分を責め、精神的にも疲れ果てて心の病にもなってしまうと思う時もあります。
現在、情報システム関係の会社に勤め、親元で暮らしています。食事、入浴、トイレ、就寝時の数時間ごとの体位交換などをヘルパーさんや家族、同僚に助けてもらいながらの生活です。現在のこの状況は本当に恵まれていると思います。
一方、病気が進行し、両親も年をとっていくなか、いつまでこの環境で暮らせるのか不安です。
7年ほど前、原因となる遺伝子がわかりました。治療薬が飲めるかもしれない。どんなにうれしかったことでしょうか。薬ができて、完治しないまでも少しでも進行がとめられれば、現状を維持する希望が持てます。私にとって切実な希望です。
しかし、同時に、患者数が少なく、費用面の問題で「製薬会社がみつからない」とも聞きました。ようやく今年の8月、経済産業省の助成で、製薬会社が開発に着手することになりました。
難病の薬の開発を民間の市場に任せていては解決できません。国の対策が必要です。
今年度、遠位型ミオパチーは「難治性克服疾患研究事業」に新設された「研究奨励分野」に入り、全国的な実態調査をするための研究班が発足しました。しかし、これは1年単位のものと聞いています。
長期間にわたって進行していく性質の病気を1年だけで、どこまで研究できるのか、疑問です。
さらに、来年度概算要求では、難病研究の予算が今年度の100億円から75,5億円へ減額となりました。
根本的な治療もない私たち難病患者にとって、研究の進展が希望なのです。予算が減ることによって研究が滞ることのないよう、国の対策をお願いしたいです。
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